厚岸湖の栄養塩循環に果たすアマモの役割
数値モデルによる研究 - 秋の観測についての報告 -

【アマモとは】
 アマモを含む海草はワカメやノリなどの海藻とはちがって、陸上に生息する植物と同様に花を咲かせる植物です。海草は世界でも約50種、そのうち日本沿岸には15種が分布していて、沿岸海域で大きな生産力を持っています。海洋生態系における一次生産とは、チッ素やリンなどの栄養分(イオンの形で水に溶けているので「栄養塩」と呼ばれます)を摂取して、光合成色素を持つ植物プランクトンや海草が成長することで、この植物プランクトンを動物プランクトンが食ベ、その動物プランクトンを魚が食ベ、動物プランクトンや魚のフンが粒状有機物となって沈み、分解されて栄養塩にもどる、といった形で生態系が構築されています。海草は、葉と根から栄養塩を吸収して成長し、これを直接食べる魚はあまりいないですが、その葉上が藻の生息場所となったり、海草がたくさん群生している藻場が、魚やベントスと呼ばれる底棲生物の隠れ家や産卵場所となったり、海草が枯れて分解されてまた使える栄養塩になったり、と多様な生物群集の生息基盤となっています。

 日本沿岸では近年、護岸工事や沿岸開発により藻場が激減しており、それをくい止め、藻場を復活させるためにどうしたらいいか、を考えるためには、まず海革が沿岸生態系でどういう役割をはたしているのか、をきちんと知らなければなりません。厚岸潮はその海草の一種であるアマモの日本でも有数の生息地です。本研究は、この厚岸潮において、数値計算によるシミュレーションを用いて、アマモが生態系に果たしている役割を定量的に調べるのを目的としています。

【研究の方法と結果】
 現場観測は97年9月に約2週間、厚岸潮の3点で採水を行って、水中の栄養塩(硝酸塩とリン酸塩)と、植物プランクトンの光合成色素であるクロロフィルaの濃度を測定しました。また、別寒辺牛川の大別橋のところでも採水して厚岸潮に注ぎこむ河川水のなかの栄養塩の量を測定しています。

 アマモの生息領域と生物量などはいままでに行われた観測に基づいて設定し、図1に示した生態系モデルと厚岸湖・厚岸湾の地形を与えた物理モデルを結合し、降水量、河川流量、目射量などの9月の実際の値を与えて、植物プランクトンや栄養塩の濃度がどう変化するか、各コンパートメント(生態系モデルを構成する、「植物プランクトン」や「アマモ」「硝酸塩」などの構成要素)の間でチッ素やリンがどう流れているのか、ということをシミュレーションしました。

 アマモは葉から水中の栄養埠を摂取するだけではなくて、根から底泥中の栄養塩も摂取して成長することが出来るので、アマモがあることによって底泥中の栄養塩の再生産(再び水中の栄養塩として植物プランクトンなどが使えるようになること)が促進されているということが、シミュレーションによって定量的に明らかになりました。

図1厚岸湖の生態系モデル

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