アオサギによる海から森への物質輸送が森の生物に及ぼす影響
 北海道大学大学院水産科学研究科 上野裕介

 皆さんは「森は海の恋人」という言葉を聞かれたことがありますか?森が豊かな場所では、森の栄養が川を伝って海に入り、海の生き物をはぐくむ糧となるということを、表した言葉です。近年、この言葉は様々な人々によって取り上げられています。しかし、ここで少し考えてみてください。雨が降ると、森の栄養は海に流れてしまいます。そのままでは森は栄養を失い、やせていく一方です。森がやせてしまうと、次には海もやせてしまうかもしれません。
 厚岸湖には、毎年、様々な水鳥が訪れます。その中に、アオサギという鶴に似た灰色の大きな鳥がいます。このアオサギは、春先に南から渡ってきて、厚岸湖近くの森に集団で巣を作ります。彼らは、餌である小魚や甲殻類を雛に与えるために、日に何度も餌場である厚岸湖と巣のある森を往復します。こうして森へ運ばれた小魚や甲殻類などの海の栄養は、アオサギの雛の口に入り、フンとして森へ降り注ぎます。フンの落ちる場所では、森の土壌は栄養に富んでいると予想されます。また、栄養に富んだ土は植物にも影響しているかもしれません。そこでアオサギの巣のある森と、そうでない森で、次のような調査を行いました。まず、(1)アオサギは、どのくらいの量のフンを森へ落としているのか?次に、(2)森へ落ちたフンは、森の植物にどのような影響を与えているのか?さらに、(3)フンの量の多い年と少ない年で、植物への影響が変わるのか?を4年にわたり調べました。
 その結果、フンの多かった年には、巣のある森全体でアオサギの巣が220巣もあり、森へ落ちるフンの量は約12トンにも及んでいました。一方でフンの少ない年には、巣が27巣で、フンはほとんど森へ落ちていませんでした。このような違いが生まれた原因は、アオサギの習性にあると考えられます。アオサギは、数年から十数年で巣を作る森を変えます。今回の研究は、ちょうどこの巣を移す時期に重なってしまったようです。さらに興味深いことに、このフンの量の大きな変化は、植物に異なる影響を与えていました。フンの多い年には、全ての植物(下草)が枯れていましたが、フンの少ない年には、一部の植物が枯れずに残っていました。また、この残っていた植物は、林の中で普段見かけることのない種類でした。これらのことは、アオサギによって海から森へもたらされた栄養が森の生物に及ぼす影響を知るためには、アオサギが盛んに子育てを行っている期間だけでなく、子育てをやめてしまったあとにも注意する必要があることを示しています。
 これらのことから、アオサギによって運ばれた海の栄養は、長い目で見ると森の生物を豊かにし、豊かな森は再び川を介して海を豊かにすると言えるでしょう。この森と海の間の循環がうまくいってこそ、森も海も豊かさを保っていけるのかもしれません。今後は、これを科学的に証明するために、アオサギによる海から森への栄養の循環が既に途絶えた場所で、森の生物がどのように変化していくのかを追跡していく予定です。

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